魔術師 対 邪術師 第1話−天才少年−
「くらえぇ!“アンディーラ”!」
そう唱えると、少年は手を上にあげた。
すると掌の上に光の玉が現れ、ナイフの形となって飛んでいった。
「うわぁぁ?!」
ナイフは男の数センチ横を通り過ぎ、後ろの壁に突き刺さった。
「降参、か?」
「す、すみませんでした………。」
「さすがはエドワードだ!」
「助かったぜ!」
「いやいや、コイツがたいしたことなかっただけさ。」
ここは、レンラーク村。
魔術が盛んなフレジュラーク国の東部の小さな村。
国内で『天才』とうたわれる兄弟、エルリック兄弟の住んでいる村だ。
店に押し入ってきた体格のいい強盗を取り押さえられるほどの大人顔負けの才能と魔力は、
とある事件をきっかけに国内に広まることとなった。
1年前。エドワードが15歳の時だった。
首都ファオンズに買い物に来ていたエルリック兄弟は、
偶然にも殺人事件に出くわしてしまったのだった。
「キャァァァ!」
と、甲高い悲鳴が上がり、人が集まるその中心には血にまみれた男が立っていて、
男の足下には女の人が倒れていた。
「オレは、オレは…………ッッ!」
ボソボソと何か呟くと、男は周りの野次馬に斬りかかった。
「どけぇ!怪我じゃすまねぇぞっ!」
悲鳴や鳴き声が聞こえ、逃げまどう中、エドワードだけは逃げなかった。
逃げるどころか、男に立ち向かっていったのだ。
止めるアルフォンスの声も聞かずに、男の前に立ちふさがった。
「どけ!怪我じゃすまねぇって言ってるだろうっ!」
「………“アンリュード”!」
と呪文を唱えると、周りに光の玉が無数に発生し、
「GO!」
というエドワードの声とともに男に向かっていった。
群衆は、みな目を丸くした。
“アンリュード”は10代の少年が使えるような攻撃呪文ではないのだ。
魔力を大量に消費するので、下手をすると術者が倒れてしまう危険もあった。
しかし、エドワードはふらつきもせず、
そのうえ狙いは的確で、見事に取り押さえてしまったのである。
男は、正気ではなかった。
人を殺してしまった、という感覚を全然持たないような、
ねじ曲がった性格だった。
後日、そのことが新聞に大きく取り上げられ、エドワードは一躍(有名になったのだ。
その後もエドワードは技を磨き、アルフォンスも続くようにめきめきと力を上げていった。
攻撃系魔法が得意なエドワードを、補助系魔法が得意なアルフォンスが援護する。
そのコンビの噂は国内にあっという間に広がり、
エルリック兄弟はもはや時の人となった。
魔術師達のモットー、『魔術では真の幸せはつかめない』。
本当の幸せを見失わないように、と長年語り継がれている言葉。
しかし。
その言葉を切り裂くように、
そして、エドワード達を巻き込んで。
あの事件は、起こったのだった。
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2006年1月23日 UP