魔術師 対 邪術師 第2話−記憶−
それは、ウィンリィの16歳の誕生日パーティーでのことだった。
ロックベル夫妻、エルリック兄弟やフェクショリア姉妹が集まる中で、
ウィンリィに異変が起きた。
「ウィンリィ!はい、プレゼント!」
「わぁ!ありが…と… …… … 。」
ドサッ。
「ウ、ウィンリィ?!」
ふっと目がうつろになり、ぱたりと倒れてしまったウィンリィは、
熱があるわけでもなく、それどころかどこも悪くなかった。
ただ一つだけ。
ウィンリィが目覚めたときに。
「う……ううん………。」
「あ!目が覚めた!」
「おい、大丈夫か?!」
「……………なにが…?」
「何がってお前、誕生日パーティー中に倒れたじゃんかよ!」
「……パーティー…?……だれの……?」
「お前のに決まってるだろ?!」
「…私の……?……私………?……私は…………誰……?」
「もしかしてウィンリィ………記憶、無いの?」
「………ウィンリィって……だれ……?」
「ウソでしょうっ?!」
叫んだのはウェルチアだった。
「ねぇ?!覚えてないの?私のこと、わかんないの?!」
「………わかんない……。」
「――ッ!」
その一言を訊くと、ウェルチアは扉をバァン!と荒々しく開けて飛び出して行ってしまった。
「お姉ちゃん!」
妹のジャクリアが跡を追う。
それ以外はみな、黙りこくったままだった。
「なんで記憶がなくなったんだ………?」
「なんにも覚えてないもんね…。」
「…………もしかして。」
そう可能性を提示したのは、ウィンリィ父、テウルだった。
「邪術にかかっているのかもしれない。」
「邪術?」
「本で読んだことがある。昔の話だ。
魔術が盛んになってから数年経ったある日、とある魔術師が術をつかった。
魔術の中でも最高といわれる“セルファウド”。相手の何もかもを封印してしまう、封印魔術だ。
その術に失敗して、その術師は死ぬはずだった。
しかし、その魔術師は死ななかった。
その理由は分からないが、死ななかった代わりに、心を闇に支配された。
そいつが編み出してしまったのが“邪術”だ。」
「オレも読んだことあるぜ。『魔術と似ているが術は全て邪悪で、主に封印系の術が多い。
その術は今でも語り継がれ、使える者が数名存在する恐れがある』。」
「そう。邪術師が得意とする封印魔術には“記憶を封印する”ものがあるらしい。」
「じゃぁ、じゃぁウィンリィは、その術にかかった、と?」
「多分な。」
「……オイ、ウソだろ……?今までのこと、全部忘れちまったのかよ………っ。」
「いや、忘れたんじゃない。」
「え?」
「“封印”されているだけだ。」
「………………アル。……封印をとく方法を探すぞ。」
「とく方法ったって、どうやって調べるのさ?」
「…………とりあえず、いろんな町を回ろう。何か、見つかるかも。」
次の日。
早速旅に出ようと言うエルリック兄弟を、村のみんなが見送った。
「頑張れよー!」
「無事に帰ってこいよなー!」
「おう!」
そこには幼馴染の顔はなく、フェクショリア姉妹もいなかった。
少し歩いたところで、ジャクリアに会った。
「あれ、ジャクリア?」
「エドワードさん、私も連れていってくれませんか?」
「は?!危ないからダメに決まって……。」
「でも!お姉ちゃんが可哀想で、昨日からずっと泣いてて……。」
「…………わかった。いいよ。」
「に、兄さん?!」
「平気だって。オレたちがいるんだし。」
「どこからでてくるんだよ、その自信…………。」
こうして三人は、術をとく方法を探す旅に出るのだった。
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2006年1月28日 UP
背景協力雨上がりの空・小道 空様