偽りの愛情 第1章 ―契約―
「昨日さぁ、私の彼が…………。」
「きょうデートなんだw楽しみ〜w」
教室のいろんな所から聞こえてくる会話。
私に、彼氏はいない。候補もナシ。
まわりの友達は、もうみんな彼氏持ち。
『ま、別にいなくったっていいし。』
そう、いなくてもよかった。あんなことが起こるまでは。
「アリス、一緒に帰らない?」
「ごめん、今日ちょっと寄らなきゃいけないとこがあってさっ。」
「わかった。じゃ、また明日ね!」
「バイバイw」
何気ない会話を交わして、学校をあとにする。
一人で帰るなんて、そう珍しくもなかった。
『こっちを通れば近道になるわね。』
路地にすっ、と入った瞬間。ガッ、っと私の腕をつかむなにか。
「きゃぁッ?!」
その何かを振り払うと、それが何だったか見えた。
ぐったりしているネコ。もう、瀕死の状態だった。
「もしかして…………?」
「あーあ。死んじまったか。」
「!?」
振り返ると、そこには壁によりかかった金髪の男の子。そいつは、見覚えがあった。
「エドワード君?」
B組のエドワード・エルリック。結構イケメンだ、と評判だった。
「よっ。一人で寂しく下校かよ。」
「五月蝿いわね。イイでしょ、別に。」
「ま、いいけどよ。……それより、そのネコ。」
ネコに近寄って体を触る。
「死因は打撲、ってとこか。どうすんだ?」
「えっ?」
「このネコ、ケスナーのネコで有名だぜ?それに、さっきのが原因っぽい。」
「―――――っ?!」
ケスナー。この辺を裏で操っているネコ好きで有名な一家。
噂では、犯罪だろうとなんだろうと何でもやっているらしい。
「どうすんだ?」
「……………………………。」
「…ま、オレはあんたがどうなろうと知ったこっちゃぁない。
今すぐにでもチクリに行くけど?」
「え…っ!」
「困る、よな?」
「当然じゃ「そこで、だ。取り引きしようぜ。」
「取り引き…………?」
性格が悪い、と噂もある。どんな条件がくるの………?
「黙っててやる。オレと契約すれば、な。」
「けい……やく?」
困惑する私にさらりと言う。
「そ。『恋人』って契約。」
「なっ……?!」
「どっちにせよ、選択肢なんてねーだろ?」
「…………………っ。」
どうなるかはわからないけど。エドワードにしゃべられたら。
私は、絶対―――――。
「………わ、わかった。」
「…じゃ、契約開始。とりあえず、家まで送ってくよ。………そのまえに。」
よりかかっていた壁を離れると、ツカツカと私に詰め寄る。
いつの間にか壁に背中がピッタリと付き、気付けばエドワードと対峙していた。
「な、なに………?」
「契約書…とでも例えておこうか?」
私の頭の横の壁に手をつくと、夕日に照らされた影が私を包んだ。
「なに…?」
「………。」
弱冠の沈黙のあと。
私の口に重なったのはエドワードの口だった。
「……!?」
何秒経ったのだろう。エドワードが私から離れると、
ペタリと地面に座り込んでしまった。
「これで本当に、契約成立。じゃ、送ってくぜ。」
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2006年3月29日 UP