偽りの愛情 第6章 ―本当の気持ち―
近くの人気のない空き地に私達をおろすと、翼をたたんだ。
「さぁて、これからどうするかねぇ。」
「とりあえず、私は逃げるわ。……来年の生徒会選挙までには戻ってくる。」
「え、じゃぁ私も逃げないと…………」
「大丈夫よ。お父様は、裏切り者の方を憎むから。
追うとすれば………そう、私か、エドワード。ウィンリィちゃんは当分、
この町にいて平気よ。そのうち、悪事も明るみに出るしね。」
「え?どういうコトですか?」
「オレが全部市議会にチクっといた。しかも、あんなヤツより権力なんて何倍もあるヤツら。」
「だから、圧力はかけられないし、権力でねじ伏せることも不可能。」
「オレは自首ってコトで釈放してくれたしな。」
「じゃ、じゃぁ エドワードはどうするの?」
「そうだなぁ。もう行くとこもねーし。………どっか旅にでも出る。」
「旅って、どこへ行くのよ?」
「どこでもなく、ふらふらとさまよってみるさ。」
「じゃぁ、私はお先に。逃げないとね。」
「待ってます、先輩。」
「そっちも、頑張ってね。」
もう夜。すこし、雨も降ってきた。
「サヨナラ、だな。」
「………………。」
「そんな悲しそうな顔すんなよ。もっといいヤツ見つけろよ。」
「………。」
翼を出すと、私から離れていく。
―勝手に、どこへでも行けば―
「待ってよ!」
そんな気持ちとは裏腹に、もう一つの気持ちが、そう叫んでいた。
離れていくエドワードの影が、ピタリと止まる。
「契約………契約は、どうするの?」
「あんなもん、もう無効だろ。オレが一方的に破ったしな。
……最初から、破ってたわけなんだけど。」
「でも、助けてくれたじゃない!あのまま、殺すこともできたでしょ?」
「………………。」
「ねぇ、お願いだから。サヨナラなんて、言わないで…………。」
だんだんと声が消えていく。涙が頬を伝った。
理由は簡単。知らないうちに、好きになっていたから。
「置いてかないで ………。堕天使だって、私 は 好 き だ か ら ……。」
「………………………。」
ふわり、と私の体を何かがつつんだ。
黒い翼―、エドワードの翼だった。
腕は、私をぎゅっと抱いてくれていた。
「エドワード………。」
「ありがとな、ウィンリィ。………でも、オレは一緒にいられないんだ……。」
「え?」
「オレたち堕天使は、人間と愛し合っちゃいけないことになってる。
………住んでる世界が違うからな。
その掟を破ったヤツがどうなるのか、オレは知らない。
でも……………消えるみたいだな、破ると。」
エドワードに触れていたはずの腕。触れていたその感覚が無くなった。
だんだんと、エドワードが透けていく。
「いや……消えないで………。」
そんな願いはむなしく、どんどん見えなくなっていく。
そのとき、エドワードが私にキスをした。
あの、契約の時とは違う、優しくて、甘いキスだった。
「ウィンリィ。…オレも………好きだったよ…。」
最後にみせたのは、おだやかな笑顔。
そう言い終わると、羽がぶわぁっと宙を舞った。
それにまぎれるかのように、エドワードの姿はなくなった。
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2006年7月27日 UP