魔術師 対 邪術師  第6話−想い−

「なんでお姉ちゃん!なんでウィンリィお姉さんに術を?!」
「………私は、小さい頃から好きだったの。そのころはまだ、自分の思いに気がついてなくて。
 ただ、自分の好敵手(ライバル)としか、見てなかった。」
「好敵手ってまさか………。」
「……そう。あなたよ、エド。」
「オレの事でウィンリィに術を「あたしは!」
エドの言葉を遮るように、ウェルチアは続ける。
「あたしはエドのことが好きだったの!ずっと、ずっと!
 ………でも、あなたは違った。私よりも、ウィンリィだった。
 私はただの『競争相手』。あなたの目には、そういう風にしか写ってなかったんでしょう?
 ………だから。ウィンリィに術をかけた。もともと封印系魔術は得意だったから、
 成功すると確信してた。
 ウィンリィからあなたの記憶をなくせば、あなたは諦める。……最初は、そういう計画だった。
 でも、それが狂った。」
「………テウルさんが、邪術のことを知っていたから。」
「そう。邪術のコトがバレれば、あなたはとく方法を探しに行く、と思ってたから。
 事実、あなたは探しに行った。そして、突き止めてしまった。」
「そんなの、お姉ちゃん勝手すぎるよ!」
「ジャクリアは(だま)ってて!……全部あなたと、ウィンリィのせいよ。」
「………オレに、罪を移し替えよう…ってか。その前に、お前を一発殴るけどな!」
エドワードが()け出すと、ウェルチアはかまえる。
「“ウィルファンズ”!」
「?! 訊いたこと無いぞ……って、邪術かっ!」
ウェルチアのうえには大きな光の玉ができていた。
飛んできた球をとっさによけるエドワード。
エドワードが一瞬前までいた場所を、玉は通り過ぎる。
「くっそー!厄介(やっかい)だな!どんな術か知らねぇぞ!………“アリシュフォール”!」
「え?!……封印魔術?!」

エドワードが封印魔術を使えるとは思っていなかったのだろう、
見事に封印陣に囲まれ、魔力を封じられてしまった。
「意外なとこでやくにたったな、あの課題。
 魔力がなけりゃ、邪術だろうと魔術だろうとつかえねーかんな。
 ………さて。封印の解き方、教えてもらおうか!」
「流石は天才少年。どんな魔術もお手の物、ってわけね。………いいわよ、教えてあげる。」
ものありげな笑みを浮かべて、解き方を告げる。
「邪術はすべて、人の命で清算(せいさん)されるわ。
 この術の代償となる命は、『被術者(被害者)の恋人』。……つまり、あなたのことよ。」
「お姉ちゃん!それって、「エドワードさんが死ねば、ウィンリィさんの記憶は戻る」ってこと?!」
「そうよジャクリア。読解力(どっかいりょく)、ついてきたじゃない。」
「冗談はやめてよウェルチア!本当のこと言ってよ!」
「本当よアル。エドが死ねば、ウィンリィは元に戻るわ。
 疑うなら、あの本を見てみなさい。あの本は完璧だから。」
「……………………。」

「………オレが死ねば、いいんだな?」
「えぇ。」
「間違い、無いんだな?」
「間違いないわ。」
「………………………。」
フッ、とウェルチアのまわりにあった封印陣が消えた。
封印している間に聞き出して縛っておくなりするつもりだったんだろう。
「…………そうか。」
「エドワードさん…………。」
「………オレはもう、何もしない。…殺すなりなんなり、すればいい。」
「兄さん!何言ってるの?!兄さんが死んじゃったら元も子もないじゃないか!」
「………ウィンリィによろしく言っといてくれな、アル。」
「…………そう。……もういいのね。」
「…あぁ。オレの命一個なら、安いもんだ。」
「……“ウィルファンズ”!」
エドワードを、光の玉は直撃する。
叫び声も、なにも声を上げずに。
光が消えたとき、横たわったエドワードに、すでに息はなかった。

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2006年3月2日 UP